朝、生姜を産直市に持っていく途中、大きな荷物を背負って歩いているお遍路さんを見かけた。お接待させていただきたくなり、出荷を済ませた後、その人が行くだろうルートを追いかけてみたけど、会うことは出来なかった。縁がないとはこういう時のことを言うのだろう。
それから高松自動車道に入り、四国霊場八十八番大窪寺へ紅葉を見に行った。
高松市からさぬき市へ、大窪寺がある讃岐山脈が見えてくる(表紙写真)。結願への道を進んで行くと、道沿いに前山「おへんろ交流サロン」がある。入ってすぐに、四国の大きな立体地図があり、周囲を囲む各霊場のボタンを押すとその位置が示されるようになっている(写真)。
遍路の起源や変遷の歴史、衣装や古い時代からの資料・写真などが展示されている。ここに来るといつも、昔から連綿と続くお遍路さんたちの歩く姿や祈りの声が聞こえて来る。
スタッフの方に、女体山に登って大窪寺に行く林道の状態を聞くと、今は通れるとのことだった。余り時間がなかったのでそのコースは次の機会にして、普通の道を走っていった。
大窪寺の門前は紅葉真っ盛り。休日ともあり多くの人が訪れていた。霊場ではよく高齢者を見かけるのだが、その日は若者や子どもたちでにぎわっていた。
山門を覆うようにもみじの枝が垂れ下がっており、時おり吹く風に赤く染まった葉が揺れる。境内にそびえるイチョウの大木もまっ黄色に染まっていた。風雅で美しい季節の風景―。
大窪寺は、二つの女体山(胎蔵ヶ峰)の懐に包まれるようにして建っている。本堂の内陣は極彩色豊かな立体曼荼羅のホール、中央に秘仏・薬師如来が祀られてある(通常は拝観できない)。一度入堂したことがあるので、その荘厳さ、美しさが目に浮かぶ。参拝を終えて、門前のお土産店で休憩した。
翌日は、室戸岬を回って行った。阿南市の中央街を少し過ぎたところ、国道55号線沿いに「大菩薩峠」というレストラン(写真)がある。看板は目立たず、古い遺跡のような建物なのでレストランとは思えない。レンガ造りの建屋一面、蔦に覆われている。何十年ぶりか、中に入って昼食をとった。
2階の丸窓の席、少し異世界にいるような空間、机も椅子も木づくりで、食器もオリジナルの素焼きらしい。通路をつたって行くと休憩所があり展望台がある。まるで古代遺跡にいるような感じだ。
そこから室戸岬まで、太平洋沿いに走っていく。途中、四国別格第4番霊場「さば大師」に参拝。丘をくりぬいて創ったという洞窟がある。うす暗い洞窟の通路には、四国88霊場と別格20霊場の本尊が立ち並び、順にお砂踏みができるようになっている(写真)。たどりついたホールには、不動明王が祀られてある。この地は、過去自転車遍路をした時に、野宿をさせてもらった思い出の場所である。
道は青い太平洋沿いに、途中、白浜海岸で休憩。砂浜のテラスでくつろいでいる人達、のどかな海辺のひととき。宍喰、いくみ海岸、野根とすがすがしい海岸線を走り、室戸岬にたどり着く。周辺には「廃校水族館」や「海洋深層水」関係の施設が出来ている。
空海が悟りを開いたという「ミクロド」―。今は塀がされてあり、洞窟の前に屋根がつけられたりしている。
納経所の人と思われるじいさんが指さしながら、「右が空海が修行していた洞窟、左が住居していた洞窟です」と説明してくれた。
今は海面10mになっているが、空海が修行していた当時は海面5mほどの位置にあり、洞窟の手前まで波が来ていたらしい。ここで空海は求聞持法の修行をされ、明けの明星が口に飛び込んで来て、光明を得たと伝えられている。洞窟に入り、その雰囲気を味わってみる。
それから近くの道の駅で休憩。太平洋に沈む夕陽を眺めていたらすっかり暗くなってしまった。夕闇の中、南国市まで走り帰途に着いた。ちょうど四国を半周したような道程でした。(2022.11)
Comments