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高野・大峯回道


今年も桜は咲き、桜が散った。

 大峰や よしのの奥の 花の果て(芭蕉の友人)

 願わくは 花のもとにて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ(西行法師)

自転車遍路をしていた時、四国霊場第12番焼山寺から紀伊山地へと向かった。夕暮れせまる焼山寺の坂道を自転車で下り、小松島からフェリーに乗って、深夜、和歌山港に着いた。徹夜で高野山へ走ろうとしていたが、途中で疲れ果て、バス停のベンチで眠ってしまった。翌早朝、高野山へ24㎞の坂道を登ってゆく。

ちょうど弘法大師御恩忌1,150年の年であった。高野山への坂道は大型バスや乗用車で大渋滞していた。そこを自転車はすりぬけるようにして登った。大門が見えた時、自転車で高野山に来たという大感動-。空海が開いた密教の聖地・高野の 町を思う存分散策した。

宿坊に泊まり、朝の勤行に参加した後、大峯山へと向かう。峠から、遥かな山々を眺め、旅の行方を祈る。野迫川村、大塔町を通り天川村へ。紀伊山地の奥深く、自転車は風のように山間を駆けぬける。煩わしい世界から解き放たれ、全く自由になったかのような、とても爽快な気分であった。

途中、天河神社に詣で弁財天女に挨拶をする。隣地にそびえるイチョウの大木の下、空海が修行していたという霊地に阿字観碑(写真)が立っている。

その日は大峯登山口近くにある洞川民宿に泊まった。夜、宿の主人から「今年は雪が多く大峯山に登るのは危険だ」と忠告を受けたのだが、翌朝、天気もよかったので登ることにした。

登山口に自転車を置き、白衣に着替えて大峰山(山上ヶ岳1,719m)へ向かった。

頂上は白一面、大峯山寺の屋根近くまで雪が積もっていた。お花畑に出ると、白銀に輝く弥山が勇壮にそびえ、熊野に続く「75靡」の山脈が見渡せる。快晴、雪の霊峰、山頂には誰一人いない、早春の美しい風景に溶け入ってしまっていた。もうこのまま、消えてしまってもいいのにと想っていた。

しかし、午後過ぎ、山を降りることにした。下山、かの宿の主人に無事に帰って来たことを告げて、吉野山へと向かう。

自然が奏でる山水の美しい回廊、くねる山道、黒滝村を過ぎ、自転車は山間を駆け貫ける風のように走る。絶えず新しい景色が展開する。

夕暮れから夜へ、吉野山に到着する。

満開の夜桜。何とも異様な風景だった。うす桃色に染まった夜桜の中で、宴会が行われていた。優雅な妖艶の舞い…。

その日は金峰山寺に詣で、蔵王堂(写真)の縁側で、野宿をさせてもらった。

寝袋にくるまって思い出していた。

この吉野山から、はじめて大峯山に登った時のこと―。

あの日は登り口の金峰神社で野宿をしていた。朝、数珠を繰る音で目が覚めた、そこに一人の修験者がいた。その人の後を追って、大峯山・山上ヶ岳へ登ったものだった。その修験者は、常人では考えられない大峰山1,000日の回峰行をされているY氏であった―。吉野から毎日、片道24㎞ある山上ヶ岳を往復し、様々な修行をされている。死の極限を跋渉する荒行である。

大峯山は、役行者(えんのぎょうじゃ)が開山した修験道発祥の地で、今でも女人禁制の霊山となっている。役行者は7世紀末、当時悪にまみれた世の中を救ってくれる仏の出現を祈って、大峯山で1,000日の山籠もりをされていた。修行のかいがあって、最初に釈迦牟尼仏が現れた。次に弥勒菩薩、次に地蔵菩薩、次々と菩薩が現れたが、柔和な姿では今の濁世は救えないと、更に祈願を凝らしていく内、凄まじい忿怒の相で障魔降伏の姿をした「金剛蔵王権現」が出現された。役行者は涙を流して絶唱されたいう。

その地が大峯山頂にある湧出ヶ岳で、役行者はその御姿を吉野桜の木に彫り写して修験道の本尊とされた。その勇姿は、日本第一「金剛蔵王権現木像(源慶作)」として吉野如意輪寺に納められている(写真)。すさまじい修験の様相と力を現している。

修験道の聖地である金峰山寺・蔵王堂(国宝)には、日本最大秘仏とされる三体の「金剛蔵王権現」が祀られている(表紙の写真)。尊像の高さは何と7m級で、目前で拝見するとその霊威に圧倒される(特別御開帳のある日に拝観可)。

三尊は、真中が釈迦如来(過去)、向かって右が千手観世音菩薩(現在)、左が弥勒菩薩(未来)の変化身で、三世に渡り行者を守る守護仏とされる。

「金剛蔵王権現」は悪魔を降伏し魔性を粉砕して生きる勇気を湧出させる。

<真言:おん ばざらくしゃ あらんじゃ うん そわか>

また、役行者は、孔雀明王の呪術を自在に駆使していたと伝えられている。孔雀は毒蛇を喰らい明王は炎で煩悩を焼き清め正しい道を照らし出す。

<真言:おん まゆーら きらんてい そわか>

その後、自転車遍路は……

全走行距離1,519㎞、21日目に四国八十八ヶ所霊場+高野・大峯・吉野紀行を結願した。忘れえぬ高野・大峯回道-。


(別記)

動画⇒大峯山修験








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