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執筆者の写真TOMO

不動心


ある願いから、四国霊場第61番香園寺に行った。昔、空海が四国巡錫の折り、この近くで妊婦を救ったという伝説から、安産、子育てに霊験ありといわれている。遍路には「子安大師」といって慕われている。本堂は褐色の大聖堂、大きな金剛界大日如来が祀られてある。

祈願を終えてから、国道11号線に出て少し西に行くと「奥の院・白瀧」の標識がある。案内に沿って山道を2㎞ほど登ると到着する。ひっそりとした森の中、川の近くにお堂が建っている。堂内には不動明王と2人の童子が祀られてあり、護摩壇が据えられている。

瀧への歩道は崩れていて通行止めだったので、崖をつたって「白瀧」の近くまで行ってみた。落差7m程の小柄な瀧だが、滝つぼの両側の岩で2人の童子が守護しており、その中央の奥、瀧が流れ出す断崖の上に不動明王が座っている。瀧行場のようだ。森の木の葉が風に揺れ。木洩れ日が水面を照らし、滝の音が響いている。瑞々しい気と美しい光景にしばらくしたっていた。そして何日か「不動尊」のことを想い巡らせる日々が続いた。


密教では、不動明王は大日如来(宇宙根源の生命)の使者といわれ、悪魔降伏の姿で出現する。人々の魔性を断ち、迷いを晴らすホトケである。

何事にも動ぜぬ心-「不動心」を会得するには「不動明王」を念想するのがよい。いつ、いかなる状況においても心が動転しない境地。そこでは、心は上下八方、自由に動きながらも、あれやこれやに心をとどめない。何事にも心を悩ますことがない。「一心」の動かざるところ―。また、体が「金縛り」という状態になった時には、不動明王の真言を唱えるといい。直ぐに解放される。

日本の霊山と呼ばれる山々の多くには「蔵王大権現」又は「不動明王」が祀られてある。大自然の営みを尊び、その恩恵に感謝し、人の道を正し、世の善行を祈る山岳修験道の守護尊である。

修験道の始祖・役行者が大峰山で感得した「金綱蔵王権現」の勇ましい尊像は、奈良県吉野山の如意輪寺で見ることができる。厳しい表情の中にも美しさが感じられる。また金峯山寺蔵王堂に祀られている三体の巨大な蔵王権現像は秘仏で、御開帳の日にしか見ることができない。何度か拝観させてもらったが、すさまじい迫力がある。天川村洞川の龍泉寺の掛軸には、大峰山をバックに勇壮な蔵王権現の御姿、役行者や諸仏が色彩豊かに描かれている。蔵王権現は、各霊山により、◌◌大権現と呼ばれている。


「不動明王」の尊像や絵画は、全国各地で見られる。顔かたちや体形が様々でも基本的な形相は同じである。憤怒の形相の奥に大きな慈悲心がある。芸術的に見ても、和歌山県高野山金剛峯寺の「不動明王坐像(13世紀)」には魂が揺さぶられる。高野山南院には不動明王像としては最も古く、空海作と伝えられている「波切不動尊/立像(9世紀)」が祀られてある。秘仏であるが、一度だけ拝観させてもらうことができた。高野山には数多くの密教美術が存在する。「執金剛神」「孔雀明王」像には今も強く魅かれている。修験道・密教の護摩祈祷では、「五大明王」の降臨を召喚して行われる場合がある。密教行者たちは厳しい修行によって、心眼に映じたホトケの姿を絵画や仏像として描いて来られた。真に祈りの形像である。


「四国八十八ヶ所霊場」では、36番青龍寺45番岩屋寺54番延命寺の3札所が不動明王を本尊としている。

四国には「四国三十六不動霊場」があり、以前、巡礼したことがあった。各寺院で数珠球と金色の御姿をいただき、36の数珠球をつなぎ胸飾りを作った。36の金色の御姿は額装にして、お世話になった少林拳・故第2代宗家が建立された福岡の「八幡不動尊」に奉納させていただいた。日本の武道は不動明王の信仰とも密接に関係している。

いま、不動明王の眼は、世界の悪政、詐欺、暴力、犯罪、スパイ、テロなどを指揮する魔性の正体に向けられているようだ。権力・富・金融を支配し庶民を家畜としてしか見ていない権力者や資本家、傲慢で横柄な私利私欲に生きている者たちを睨みつけている。

* * * * * * *

そのとき、大日如来の法会に一人の明王がおられた

この大明王には、大なる威力がある

大いなる慈悲の徳の故に、青黒の形を現し

大いなる禅定の徳の故に、金剛石に座し

大いなる智慧の故に、大火焔を現される

大いなる智慧の剣で、貪り・怒り・愚痴の三毒を断ち切り

火生三昧の縄で、難伏の者を縛りあげる

本来無相であり自然の活動を体とするホトケは

虚空と同体であるように、明王の住所も無し

ただ、人々の心の想いの中に住んでおられる

人々の意識・想いは各々同じであるということはなく

大明王はそれぞれの心に随って、利益をなし

求めるところを満たし、願いをすべて実現されるのである

* * * * * * *(聖不動経/意訳2020.10)


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