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  • 執筆者の写真TOMO

旅の詩人


「道路に死なん、これ天の命なり。月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人…。古人も多く旅に死せるあり…。」旅と俳句を愛した芭蕉は、このような思いで奥の細道へと旅立っていった。

野宿つづきの旅から家に帰って来た時、水道の蛇口をひねるだけで水が出てくることに、とてもありがたく思った時があった。長らく旅をしていると、自分の家も「旅の宿」のように思えて来る。

「旅の宿」という歌がある。♪ゆかたの君は すすきのかんざし…♫ この詩は、岡本おさみさんが新婚の頃、東北・奥入瀬渓谷近くにある「蔦(つた)温泉」で過ごした時につくられたという(作曲・歌:吉田拓郎)。一度行ってみたいと思いつつ、いまだ実現していない。


旅の詩人・岡本おさみさん(故人)はある時期、東北から北海道にかけて放浪の旅をされていた。旅でつづられた「竜飛崎」「襟裳岬」「落陽」…といった有名な詩がある。いずれも拓郎氏作曲・歌。♪日々の暮らしは いやでも やって来るけど 静かに笑ってしまおう…♫「襟裳岬」は、1974年森進一さんが歌ってレコード大賞に輝いた-。


「旅に唄あり」という岡本さんのエッセイ集に、旅の詩が生まれて来た多くのエピソードが載っている。そのなかに「落陽♫」に出てくる「フーテン暮らしのじいさん」との出会いと別れの物語りがある。

北海道苫小牧市内で岡本さんは、本屋で立ち読みをしているフーテン風の老人が気になって声をかける。じいさんは難しそうな「政治評論」の雑誌を読んでいたという。若い頃政治についての「文」を書いていたらしい。

「みなさん生活が豊かで、幸せそうです。」

「食べることには不満のない生活を送っている人の文ですよ。」

ルンペン生活をおくっているじいさんの言葉が胸に突き刺さる。

次第に会話をするようになった岡本さんは、じいさんに連れられて裏町のあるところに行く。そこでは3個のサイコロを使っての博打(ばくち)が行われていた。じいさんは参加しない、巨額の借金があるらしい。「若い者が死なしてもくれん」とじいさんがつぶやく。その日、岡本さんはその場所で、じいさんとゴロ寝をしたそうだ。

あくる日、「苫小牧発・仙台行きフェリー」、じいさんが見送りに来ていた。岡本さんに、サイコロを2個わたす。…2個では博打は出来ませんね、と岡本さんが言うと、じいさんは、「あなたは博打で勝てる柄じゃありません。」そのサイコロは「帰りの船から海に捨てなさい。」と言われた。

港には旅立ちの祝いか、別れを惜しむのか、見送りの人々が来ていて、船に向かってテープを投げていた。じいさんはテープなど持っていないので、誰かが投げ損ねたテープを拾って岡本さんに向かって投げる。しかし何度投げても、船の上の岡本さんにテープが届かない。そのじいさんの姿、その光景が何とも言えず感動的だったと、あるラジオ番組で岡本さんが語っていた。


先日NHKのニュースで、今年6月の一人当たりの現金給与額・全国平均が44万2148円(ボーナス・残業代等含む)で、昨年同時期より0.1%減少したと報道していた。パートや派遣労働者から見ると何とも高額である。一方、今年5月の生活保護受給世帯は全国で163万8591件。昨年同時期より2,300件増となり、生活が苦しく、追いつめられる人が増えていると報じていた。れいわ新選組が街頭演説でよく警告されている「貯蓄ゼロ世帯の割合」(表)。とんでもない状況だ。このままいくと自殺者が増える日本民族は滅亡する----大胆な政治改革・社会変革が必要だと訴える政治家や多くの社会活動家が声を上げている。

人間を優劣で評価することや、貧富の格差がはなはだしい社会に生きている。大多数の人々の労力を搾取して、一部の人達だけが潤うという金融資本社会が続いている。富裕者は贅沢三昧し、貧乏人は金の奴隷のように一生懸命働いている。まるで金持ちや権力者たちが一般庶民を虐待しているようにさえ見える。「通貨発行権」をうまく使えない「緊縮財政」、「利権と暴力」まみれの闇社会、生きづらい世の中…。フーテン暮らしのじいさんには、どうしようもない。


岡本さんが、心中した親子の記事を見てつづられた「人生を越えて(歌・泉谷しげる)」や、狂い酒を飲んで祈るしかない「アジアの片隅で(歌・吉田拓郎)」を思い出す。かつて、不条理な社会に対し、岡林信康さんはじめ、多くのフォーク歌手が反戦歌を歌っていた。故・忌野清志郎さんがタイマーズを結成し、超過激な社会変革の歌をシャウトしていたが、後に、「何にも変わらなかった…」とつぶやかれていた。何とも空しいことである。人生の応援歌は時代と共に生まれては変わってゆく。♪ああ、歌は、いつになったら、人生を越えるのだろう、ああ、歌が歌であるために、人生を越えて…(人生を越えて)。


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