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◌元旦・厳冬の霊峰―石鎚山修験(回想)
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「初日の出を見に行こう…」「死んでもいいのなら一緒に来てもいい…」そんな話の中で、大晦日から元旦にかけて、霊峰・石鎚山(標高1982m)に登ることにした。
寒い冬の夜中、裸になり、タオルを腰に巻いて、滝の中へと入ってゆく。冬の滝の水は身を切るように冷たい。というか痛い―。
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足を踏ん張り、腹を据え、思わず大声を出さずにはいられない。滝に打たれながら不動明王の真言をひたすら唱える。滝の水が肩から全身を禊ぐ。数分後、滝の音が遠のき、頭の中が真っ白になり、体が有るのか無いのか、不思議な静けさが訪れる。ゆっくりと呼吸を整え、滝から出て、白衣に着替える。しばらくすると、体がガタガタガタガタと震え出してきた。内から揺さぶられるようで止めようにもどうしようもない震えである。仲間の彼は、そばにある川の中に入り「禊」を行っていた。
大晦日から元旦にかけては、ロープウェイが中腹の成就社まで夜通し運航しているのを聞いていた。ロープウェイに乗る頃には、体の震えもおさまり、今度は内よりぼかぼかと体が暖かくなって来ていた。成就社に着いて新年の初詣で―。
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午前2時、頭に鉢巻をまきヘッドライトをつけて、地下足袋に白衣に金剛杖、石鎚山頂を目指して、暗闇の山道を歩いて行った。キリッとした夜の山の空気、登るにつれて山道の雪が増してゆく。
「夜明かし峠」に出た時、あたりは一面の白夜のようであった。満月の光に照らされて、積もった雪が白く白く輝やいていた。そこから山頂までは、ライトなしで登れるほど、月のひかりと雪あかりに照らされた山道であった。
空がうっすらと明るくなって来る頃、石鎚山頂・弥山に到着した。頂上社の仁・智・勇の御神像は、風雪にさらされて、雪をまとっていた。石鎚大神に祈りをささげ、初日の出を待つ。登山家が数人登って来ていたが、二人だけが薄着の白衣姿であった。薄闇の中、彼が持って来ていた「餅」を少しづつかじり、震えながら日の出を待っていた。
天狗岳の向こうの空が明るくなり、群青の空に太陽が昇る。ついに来た!!石鎚山頂での初日の出!!―神々しい御来光に、手を合わせ、その光の生命にわが身を全託せん、と祈っていた。ここから新しい年が始まる。
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山を降りる頃には空は晴れ、明るい陽ざしが雪山をおおい、厳冬ながらさわやかな気持ちになっていた。ふと寒さを忘れてしまう時がある。生きよ!生きよ!と生きる力が湧いてくる。新年、生まれ変わったような日であった。
(これは20代半ばの体験です。今このような修行をすると、本当に死んでしまうかも……)